心臓ドック
心不全の基礎知識を知り、心臓ドックで予防しよう
この記事の監修ドクター
沼田脳神経外科循環器科病院 院長
赤尾 法彦
がんに次いで、日本人の死因の第2位でもある心不全は、心臓本来のポンプ機能が低下し、血液を十分に循環させることができなくなった「状態」を指します。そして、この状態によってもたらされる症状は、さまざまです。
心不全を引き起こす原因は?また、その具体的な症状とは?今回は心不全とその予防について、解説していきます。
- 目次
心不全とは、心臓が衰えた状態
心不全とは、心臓が衰えた状態を指す名であって、病名(疾患名)ではありません。心筋梗塞や弁膜症、心筋症、不整脈などといった心臓病や、高血圧が原因で引き起こされる心肥大などによってダメージを受けた心臓が行きつく、最終的な状態をいいます。
心不全は、「慢性心不全」と「急性心不全」の2つに分けることができます。
高血圧や弁膜症などが原因で自覚症状が乏しいまま緩やかに進行するのが、慢性心不全です。慢性心不全では症状が徐々に現れ、それが長期間、持続します。
一方、突然の自覚症状の出現を伴って急激な心機能の低下をきたすのが、急性心不全です。急性心不全は急性心筋梗塞や突然の致命的な不整脈が引き金になる場合が多く、突然死に至ることもあります。
心臓の機能が低下すると現れる症状
心臓は、全身に血液を循環させるポンプの機能を果たしていますが、この機能をもっと詳しく見ていくと、心臓から全身に血液を送り出す「収縮機能」と、全身から心臓に血液が戻る「拡張機能」の2つに分けることができます。
疲労感や意識消失といった症状は、収縮機能が低下すると現れるものです。一方、拡張機能が低下すると息切れや呼吸困難、むくみなどの症状が現れます。
死因第2位の心不全は、日本人にとって身近な病気
厚生労働省が2015年12月に発表した「平成26年(2014)患者調査の概況」によると、心臓病の総患者数は172万9千人です。年代別で見ると60代半ば以上で爆発的に増加しており、心臓病は日本人の死因としてがんに次ぐ2位になっています。
また、同じく厚生労働省が2017年9月に発表した「平成28年(2016)人口動態統計」によれば、心臓病の年間死亡数は約19万8千人で、そのうちの約7万3千人(心臓病全体の37%)が心不全で占められています。こういった現状を踏まえると、心不全は、日本人にとって身近な病気といえるでしょう。もし、あなたの家族に60代の人がいるのであれば、近い将来、心不全となり介護が必要になる可能性も少なくありません。
心臓病の原因には、動脈硬化や高血圧、感染症、アルコールの過剰摂取、先天的な異常などがあり、これらを背景に自覚症状もないまま慢性心不全に陥っている場合があります。これに、風邪や過労、ストレス、暴飲・暴食などのきっかけが加わることで慢性心不全が急性増悪するケースが特に高齢者で多く見られます。
「年を取ったから……」の一言で、心不全のサインを見逃してはいけない
60代になると、疲労感や息切れなどの症状を感じることが多くなります。しかし、それを「年のせいだろう」「若いころの体力はもうない」と思い込み、軽く捉えてしまうのは、危険です。なぜなら、そこにすでに慢性心不全が潜在していたり、急性心不全の原因となる急性心筋梗塞や危険な不整脈の前兆になっている危険性が十分にあるからです。
具体的な自覚症状(サイン)は、動悸(どうき)や息切れ、呼吸困難、むくみなどです。
最初は坂道や階段を上がるときに動悸や息切れが起こり、病状が進行すると平地を歩いても息苦しくなります。さらに症状が進むと、夜、床についたときに咳が出たり、息苦しさで寝られなくなったりして足にむくみが出ることもあります。
これらの症状の原因は、心臓のポンプ機能の低下によって全身の臓器に十分な血液が流れないことや、全身の血液が心臓に戻りにくくなり血の流れが停滞してしまうことです。
ちなみに、慢性心不全の症状を風邪や年齢からくる疲労感だと思っているケースも多くあります。自覚症状を放置した結果、慢性心不全を増悪させてしまい、急に自覚症状が出現して救急車で運ばれるような事態を防ぐためにも、人間ドックあるいは心臓ドックの定期受診は、特に高齢者に差し掛かった60代の人にとって、重要といえるでしょう。
まとめ:心不全のサインを見つけたら、心臓ドックを受診しよう
あらゆる心臓病が行きつく最終的な状態である心不全を予防するためには、心筋梗塞や狭心症のリスク、さらには動脈硬化の状況を定期的にチェックすることが重要です。
また、心臓に負担をかける肥満に注意し、タバコや過度の飲酒を控えて適度な運動をするなど、普段の生活から気をつけることも、心不全の予防法の一つです。もし、家族にそういったリスクを抱えている人がいるのなら、たとえ今は深刻な健康問題がなくても、改善をすすめるのが家族の一員としての愛情かもしれません。
すでに疲労感や息切れを感じている(あるいはそう見える)のであれば、「年のせいだ」と簡単に見過ごさずに、なるべく早く心臓ドックを受診して、予防に努めてください。