脳ドック
脳ドックが必要な年齢は?受診頻度の目安や検査を受けるメリット・デメリット
この記事の監修ドクター
三愛総合健診センター 副院長 脳卒中センター長
中山 尚登
脳ドックは「脳の健康状態」を調べるための任意型検診の一つで、MRI・MRAといった検査機器を用いて、脳腫瘍や脳血管疾患リスクなどの早期発見に役立てられています。
特に、脳血管疾患は40~50代で発症リスクが高まるので、40歳になったら一度は受診した方がよいといわれています。そこで今回は、脳ドックの受診でわかる病気、受診が推奨される年齢やプロフィール、検査の重要性について、解説します。
- 目次
脳ドックの目的は脳卒中の早期発見
脳ドックとは、脳卒中や脳腫瘍といった脳の病気を見つけるための検査のことです。なかでも、発症すると命に関わる恐れのある脳卒中を早期発見することが主な目的です。
検査の中心は、頭部MRI(磁気共鳴画像撮影法)検査と頭部MRA(磁気共鳴血管撮影法)検査ですが、医療機関や検査コースによっては、頸動脈エコー検査、頸部MRA検査、CT検査なども併せて実施することができます。
検査の重要性
脳卒中は、脳の血管がつまって起こる脳虚血と、脳の血管が破れて起こる脳出血の2種類があります。よく耳にする「脳梗塞」は脳虚血によって引き起こされる病気で、「くも膜下出血」は脳出血の病気です。どちらの病気も脳細胞や神経細胞にダメージを与えるため、一度発症すると、たとえ一命を取り留めたとしても、身体に麻痺や言語障害などの後遺症が残ることもあるので、早めのリスクチェックが重要です。
脳血管疾患は自覚症状に乏しいですが、脳ドックでは「無症候性ラクナ梗塞」や「未破裂脳動脈瘤」が見つかることがあります。「無症候性ラクナ梗塞」は、ごく細い動脈がつまって起こる脳梗塞ですが症状はなく、ラクナ梗塞そのものに問題はないとされています。ただ、ラクナ梗塞は、将来的に症候性の脳梗塞を引き起こす可能性が高いといわれています。
また、「未破裂脳動脈瘤」は、その名称の通り未破裂状態の動脈瘤(動脈にできたこぶ)ですが、これが破れることで、くも膜下出血へとつながってしまいます。そうなる前に検査を受けることが大切です。
脳ドックが受けられないケース
MRI装置は、強力な磁気の共鳴によって撮影する機械なので、金属に反応してしまうと検査に支障が出る場合や、安全に実施されない恐れがあります。そのため、ペースメーカーなどが体内に金属が入っている人や、刺青(タトゥー)のある人は検査を受けられないことがあります。
また、大きな音がする狭い空間でじっとしていなければならないため、人によっては心身に負担を感じることから、閉所恐怖症や妊娠中・妊娠の可能性がある人も受診できないケースがあります。
ほかにも、義歯や入れ歯、コンタクトレンズ、化粧、ネイルにも金属が含まれている可能性があるので、検査前・検査当日はできるだけ気をつけるようにしましょう。
脳ドックの受診を検討した方がよい年齢
目安は40代、日頃から頭痛が気になる場合は早めの受診を
40歳以上の人は、脳ドックを受診した方がよいでしょう。なぜなら、年齢が高くなるほど脳血管疾患は起こりやすくなるからです。なので、40歳以上で脳ドックを受診したことがない人にすすめられます。もちろん、40歳という年齢は、あくまで一つの目安なので、20代や30代で受診しても、問題はありません。むしろ、日頃から頭痛などの自覚症状があるような場合は、年齢に限らず早めの受診を推奨します。
40歳以上の受診が推奨される理由
日本人の死因で4番目に多いのが脳血管疾患です。2021年9月に厚生労働省より公開された「令和2年(2020)人口動態統計」によれば、2020年の脳血管疾患による死亡者数は102,978人にのぼります※。年齢別の死亡率は30代後半から徐々に高まり、40代になるとさらに増加するため、40歳を超えたら一度は脳ドックを受診した方がよいといわれています。
参考:厚生労働省「令和2年(2020)人口動態統計」第5表:死因簡単分類別にみた性別死亡数
40代からの脳血管疾患リスクが高い理由として、これまでの悪い生活習慣が表面化することが影響しています。40代は、不規則な睡眠やバランスの悪い食生活、過度の飲酒、喫煙習慣、ストレスなど、長年の生活習慣のツケが身体に徐々に出始める年代です。高血圧、脂質異常症(高脂血症)、糖尿病といった生活習慣病を会社の健康診断で指摘されている人もいるのではないでしょうか?
こういった生活習慣病がある人は動脈硬化になる可能性が高いため、脳梗塞やくも膜下出血を引き起こすリスクも高まります。発症してからでは手遅れになることもあるので、早いうちから定期的に検査を受けて、病気を予防しましょう。
40歳以下でも脳ドックの受診を検討したほうがよいケースもある
ひと昔前までは、「脳血管疾患は中高年の病気」というイメージでした。しかし現代は、ライフスタイルの変化に伴って20~30代でも高血圧、高血糖、脂質異常症(高脂血症)など、動脈硬化の高いリスクを持っている人が増えてきています。
すでに生活習慣病を指摘されている場合は、年齢に関わらず、脳ドックの受診をおすすめします。また、脳血管疾患は家族の病歴にも関係するといわれているので、家族に脳卒中になったことがある、もしくは糖尿病や高血圧の人がいるという場合には、20代からでも注意しておいた方がよいでしょう。
こんな人に脳ドックの受診がおすすめ
年齢は脳ドックを受診する目安の一つですが、健康診断の結果や普段の自覚症状から脳ドックを受診した方がよいケースもあります。
脳ドックの受診がすすめられるケース
- 40歳以上で一度も脳ドックを受診したことがない
- 健康診断で以下の指摘を受けている場合
⇒高血圧、高血糖、脂質異常(高脂血症)、高尿酸血症、高コレステロールなど - 動脈硬化の恐れがあると指摘されたことがある
- 肥満傾向
- 家族や血縁者に脳卒中になった人がいる。もしくは糖尿病、高血圧の傾向がある
- お酒をたくさん飲む
- 喫煙者
- ストレスが多い
- 食事での塩分摂取量が多い
- 日頃から頭痛などの気になる症状がある
また、上記以外に頭重感、手足の痺れや震え、立ちくらみ、ものが見えにくい、物忘れがひどくなった、などの傾向や症状がある場合には、保険診療を受けましょう。
脳ドックの受診頻度|何年おきに受けるべき?
特に異常がない場合は2~3年おきに
脳ドックを受診をして異常がなければ、医師からの指示がないかぎり、その後は2~3年に1度の受診でよいでしょう。ただし、無症候性のラクナ梗塞(症状がなく生活に支障もない程度の脳梗塞)が見つかったときには経過観察となるため、受診頻度も1~2年と間隔が短くなることがあります。
異常が見つかった場合は医師の指示に従いましょう
見つかった異常が無症候性のラクナ梗塞であれば、脳ドックの受診頻度は1~2年でよいといわれています。また、ラクナ梗塞は60歳以上になると発見率が増えるので、注意が必要であれば、都度、医師から指示があります。また、脳腫瘍も脳ドックで発見されることがありますが、良性腫瘍であることが大半です。
ただし、くも膜下出血の原因となる未破裂脳動脈瘤が発見された場合は注意が必要です。動脈瘤の場所や大きさによってその危険性や今後の治療方針が異なり、医師と相談をしながら治療や手術の方向性を決めていく必要があるからです。
一般社団法人 日本脳ドック学会では、異常が見つかった場合の経過観察期間として、「多くの場合6カ月ないし1年間隔が望ましい」としていますが、基本的には受診医療機関の医師の指示に従うようにしてください。
年齢によって受診頻度は変わるのか
20代や30代から脳ドックを受診して異常がなければ、その後は2~3年の頻度で問題ありません。ただし40代以降、50代、60代は定期的な受診をおすすめします。脳血管疾患は40代から発症リスクが高まりますので、検査で異常がなくても受診頻度は1~2年とするといいでしょう。
まとめ:無症状でも病気のリスクが高まる40歳からは脳ドック受診を
脳の病気は自分では気がつかないうちに進行していきます。そして、発症後、仮に命が助かったとしても、後遺症が残れば仕事や日常生活に支障が出て不自由な思いをする恐れのある病気です。
50代、60代、そしてその先も元気に楽しい人生を送れるよう、40歳を過ぎたら自覚症状がない人も、一度は脳ドックを受診して脳の病気のリスクを回避していきましょう。